館長連載:私の美術漫歩第3回

By neribi | 2011 年 5 月 6 日

第3回 「ジョルジュ・ラトゥール美術館」を訪ねて

今、私の手許にジョルジュ・ラトゥールの絵がある。

ラトゥールが描いた絵では勿論ない。ラトゥールを描いた絵だ。

「旅する絵師」とでも言ったらいいだろうか、太っちょの人なつこい表情をした男が肩から、腰周りから様々な絵道具をぶら下げて、飄々と歩く姿をセピア調のトーンでまとめあげている。

見ると「ワイズバッシュ 74/100」とある。現代ヨーロッパの具象絵画を代表する作家で、音楽家や馬の絵が多い。確か、サントリーホールにも「指揮者と演奏家」の絵が掲げられていた。

ラトゥールは、17C前半ルイ13世付き画家であったと言われている。残された作品は、ほぼ40点と少なく、その生涯も定かではない。長らく忘れ去られていたが、19C初頭に再認識された。画風には、風俗を描いたもの、聖書を題材にしたものと2系統ある。

2005年、国立西洋美術館で、「聖トマス」を入手したのを機に「ジョルジュ・ラトゥール展」が開催され、その光と闇、静けさと深さ、聖と俗の世界は、妖しげな魅力を発散し、見るもの全てを圧倒し好評を博した。(ちなみに日本には、東京富士美術館「煙草を吸う男」とあわせて2点のみある。)

そのラトゥールが、何故私の手許にあるか・・・・・?

   

2004年秋、フランス、アルザス・ロレーヌ地方モーゼル県ナンシー市を尋ねた。

11Cに開かれた町であるが、18Cロレーヌ公・スタニスラス1世(ルイ15世の義父)の時、発展した。ロココ様式あふれるスタニスラス広場は、世界遺産に登録されている。グランヴィルやエミール・ガレが生まれ育った町でもある。広場を離れると、アールヌーボーで彩られた建物をあちこちで見かける。

2008年開催の、「ガレとジャポニスム展」(サントリー美術館)のために、日本では未公開のガレの作品を借りようとの旅であった。ナンシー派美術館での交渉を終え、一息ついていると、ガイド役のガレ研究家フランソワ・ル・タコン氏が「まだある。」と言う。

「ここから車で2時間、ドイツ国境の村マイゼンタールの工房で、ガレは草創期を過ごした。当時のガレはナンシーから馬で1日がかりで通っていた。最初は華美な装飾はなく、透明ガラスでエナメル彩色、優美な色づかいでリズミカルで軽快なデザインのものが中心だった。」とのこと。そこへ行こうということになった。

人口800人の素朴な村の工房と美術館で歓待を受けた。ここも喜んで貸してくれるという。村のレストランで、ソーセージ、ハム、ジャガイモのアルザス料理、辛口の酸味の効いた白ワインを堪能して、タコン氏の車で一路ナンシーへ戻る。

ふと目覚めると小さな町の駐車場。ここを是非見て欲しいと案内されたのが

ジョルジュ・ラトゥール美術館。何でもナンシーまで30分残したヴィック・シュル・セイユという町らしい。ラトゥールはここで生まれ、ここの教会で洗礼を受け、その教会の前の18Cの邸宅を一新し美術館にしたとのこと。美術館をつくるにあたり、核となる「荒野の洗礼者、聖ヨハネ」を入手し、コローなどラトゥール以外の作品も展示されている。練馬区立美術館よりも一回り小振りの美術館だが、古い町に新しいたたずまいを見せている。ちなみに、その「聖ヨハネ」も2005年、西洋美術館を飾った。 

さてその夜、ナンシー、スタニスラス広場に面したレストラン。モーゼル県の文化局長、出版社のオーナー社長、ラトゥール美術館長、タコン氏とのディナー。

「2009年、モーゼル県あげてのガレ展をラトゥール美術館でやる。ガレは日本で大人気。名品の多くが日本にある。我々もサントリーに貸す。サントリーも名品を沢山貸して欲しい。それでないと、名実ともに大回顧展にならない。」とのこと。

その後、数度のやりとりを経て、お互いの貸し借りが成立。2008年の「ガレとジャポニスム展」開催時に、彼ら一行が視察にやってきた。今度は、こちらで日本料理とサントリーのビール、ワイン、ウイスキーでもてなした。

その時、土産に置いていったのが、くだんのワイズバッシュ(ナンシー生まれ)作「旅する絵師」。よくあるリトグラフの小品、最初は一瞥しただけで放っておいたが、額装して掲げると、どうしてどうして、思わず微笑みたくなるほど「味」がある。

2009年5月、ラトゥール美術館で開催された「エミール・ガレ展」。日本から、サントリー以外にも沢山のガレの作品が里帰りし、盛況だったとのこと。100年の時を経て、ガレの作品が日本で、フランスで一堂に会し、多くのファンの心をときめかす。まさに日仏文化交流の典型例ではないか。

ラトゥール、グランヴィル、ガレ、それにワイズバッシュ、ナンシーゆかりの作家たち。

グランヴィルの影響を受けたガレ、ガレの回顧展が開かれたラトゥール美術館、そのラトゥールを描いたワイズバッシュ。

その全てに、ほんの微かにからんだ私。不思議な縁(つながり)を感ずると言ったら、夜郎自大の牽強付会か・・・・・・・?

ところで、練馬区立美術館。

「ときめきの美 いま 練馬から」のキャッチフレーズ、ロゴ・マークも決まった。

みなさんのお力を借りながら、多くの「ときめき」を発信していきたいものだ。

    

  *次回は「音の宝石箱、サントリーホール誕生秘話」

   

練馬区立美術館サポーター通信「階(きざはし)」12号 、2011,4,1発行
より転載